先日アフガニスタンの首都カブールが反政府勢力のタリバンによって陥落したというかなり衝撃的なニュースが入ってきました。
個人的な考えも含まれていますが、カブール陥落のニュースや、タリバンとは一体どういう組織なのか、また2019年12月4日に何者かに銃撃されて亡くなった中村哲医師の残した言葉等からこれからのアフガニスタンはどうなっていくのか少しまとめてみようと思います。
アフガニスタンの首都カブール陥落
これ日本で住む人からしたらアフガニスタンでまた何か起きてるなぐらいにしか思っていない方がほとんどかもしれませんが、なかなか凄い事が起こっていると思います。
米軍がバイデン大統領の声明の下、同年9月11日を期限にアフガニスタン撤退を進めることをきっかけとして、タリバンは8月14日夜までにカブール以外の主要都市を陥落させ、翌15日にはタリバンは首都カブールを包囲したと声明を発表しました。
アフガニスタン当局の治安部隊はすでに撤退していたため、事実上のカーブル陥落となりました。
「タリバンがアフガニスタン全土を掌握した」のはたった11日です。
ちょっと早すぎませんか?
アフガニスタン全土の掌握にかかった日数が11日間と発表したのはアメリカ軍のトップであるマーク・ミリー陸軍大将という方で、アメリカ統合参謀本部議長を務めています。
世界のトップであるアメリカが予測できないなんて事はあるのでしょうかね?
たしかに9.11は防ぐ事は出来ませんでしたが、更に情報社会となった今、色々と勘ぐってしまいます。
なぜ11日間が早いと思ったのかと言うと、アフガニスタンって人口は約3900万人と日本の約1/3ぐらいですが、土地は日本の1.7倍ぐらいあります。
そして日本の公安調査庁のデータによるとタリバン組織の総数は約6万~6万5,000人と言われています。(公安調査庁)
この人数から見ても、単独でこの広大な土地の国を数日程度で占領できるような規模の組織ではない事は明らかだと思いますが、カブール占領後はアフガニスタンの中国大使館とロシア大使館はタリバン兵士に守られていた事からどこかの国が動いていたのは間違いなさそうな気がします。
首都カブールが陥落したのは3度目
実はカブールが陥落されたのは今回で3度目のようです。
1度目はアフガニスタン内戦(1992–1996)によってカブールの支配権をめぐる戦いが行われました。
1996年9月27日にカーブルを占領したタリバンは『アフガニスタン・イスラム首長国』の成立を宣言し、国連施設にいた元大統領ナジーブッラーも処刑されます。
2度目は2001年11月に北部同盟軍によってタリバン側が撤退し、カブールを取り返した形になります。
北部同盟軍とは、反タリバン政権として北部アフガニスタンを統治した勢力の事を指し、正式名称をアフガニスタン救国・民族イスラム統一戦線と言います。
米英の空爆や、特殊部隊から支援を受けた北部同盟がカブールに入り込み、タリバン軍はカンダハールに退却した事により2度目の陥落、つまり首都を取り返したという形になります。
そして2021年の今回が3度目という事です。
カブール空港に報復を恐れた市民が殺到した映像はなかなか衝撃映像でした。
第3次世界大戦の懸念
AFP BB Newsの記事で、中国、タリバンと「友好関係」発展の用意あると表明した事からアメリカがそんな事許すはずがないと思っていたんですが、基本的人権を守る等の条件付きではありますが時間をかけて容認していく方向と聞いて少しホッとしました。
今思えば中国の王毅外相がタリバン幹部と会談したのは7月下旬だった事や、9月11日までにアメリカ軍が撤退を表明していた事から、カブール制圧は秘密裏に動いていたのではないかと推測します。
そういう事もあってか最悪全面戦争まで起こりうるのではないかと心配したのですが、今のところ大丈夫そうなのでホッとしています。
タリバンは本当に悪なのか?
1度目にカブールを陥落し、2001年に再度奪還されるまでの5年間は、タリバンが政権を掌握してたのですが、タリバンの政策は娯楽や文化を否定し、また公開処刑を日常的に行うなど、過激な活動するなどイスラム主義に基づいた厳格なものでした。
例えば殺人を犯した者に対してその犠牲者の遺族による公開処刑を行ったのですが、これはイスラム法に基づくというより、パシュトゥンワリというアフガニスタンで最も多数派のパシュトゥーン人たちの間で用いられる部族の掟に基づかれています。
代表的な例としては、成人男性にあごひげを生やすことを強制したり、女性にブルカ(女性の顔を見えなくするように覆う布)の着用を義務付けたりする事です。
また女性は学ぶ事も働く事も禁止され、親族男性を伴わなければ外出さえも認められなかった為、アフガニスタン国民からの支持は低下していきました。
しかし、2001年にカブールが再び奪還された20年はアメリカ側もずっとアフガニスタン政権を支えてきましたが、20年間アメリカ政権が費やした戦費は3兆ドルとも言われており、それだけのコストを費やしても結局は腐敗し権力抗争に血道をあげるだけの政権しか確立できなかった事からアメリカ側も現政権に不信感を覚えていったのかもしれません。
故・中村哲医師の活動をタリバンは圧力を加えるどころか守っていた
Embed from Getty Images皆さんは中村哲さんという方をご存じでしょうか?
知らない方の為に簡単にご説明しますと、ペシャワール会という非政府組織を設立し、パキスタンやアフガニスタンで医療活動に従事してきた方です。
当初、主にハンセン病の治療に取り組んでいたのですが、2000年の大干ばつ時の赤痢患者急増をきっかけに、清潔な飲料水の確保にも取り組むようになった。
また、自給自足が可能な農村の回復を目指し、農業事業にも取り組んでいます。
この清潔な飲料水を確保する為のインフラ整備を中村氏は医師にも関わらず、自ら重機を動かし用水路建設に携わり、約3,000 haの荒廃地が農地に変貌させる等、アフガニスタン市民に多大な貢献をされてきた方です。
紛争地帯の人々をインフラ整備として雇用する事により、傭兵として職を求める事の予防にも努めています。
アフガニスタンから国家勲章や議会下院表彰などが授与されたり、名誉市民権が贈られている中村氏ですが、日経ビジネスで2001年に掲載されていた記事でタリバンについて語っています。
20年も前の記事なので今とは現状が異なっているのかもしれませんが、タリバンのイメージと、アフガニスタン政府(北部同盟)の外から見る印象と中から見る印象が真逆なんですよね。
一部抜粋すると、
日本の報道で一番伝わってこないのが、アフガンの人々の実情です。
北部同盟の動きばかりが報道されて、西側が嫌うタリバン政権下の市民の状況が正確に伝わらない。
日本メディアは欧米メディアに頼りすぎているのではないか。
北部同盟はカブールでタリバン以前に乱暴狼藉を働いたのに、今は正式の政権のように扱われている。
今もてはやされている北部同盟の故マスード将軍はハザラという一民族の居住区に、大砲や機関銃を雨あられと撃ち込んで犠牲者を出した。
人々を力で抑えられるほどタリバンは強くありません。
旧ソ連が10万人も投入して支配できなかった地域です。
一方で市民は北部同盟は受け入れないでしょう。
市民は武器輸送などでタリバンに協力しています。
北部同盟に対しては、昔の悪い印象が非常に強いですから。
タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガン国内に入ってみると全然違う。
恐怖政治も言論統制もしていない。
田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。
少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです。
日経ビジネス
また、厳格なイスラム法は女性に対する教育なども厳しく取り締まるのですが、それは表向きで実は黙認されている事も述べられています。
女性の隠れ通学を黙認
女性に学問はいらない、という考えが基調ではあるものの、日本も少し前までそうだったのと同じです。
ただ、女性の患者を診るために、女医や助産婦は必要。
カブールにいる我々の47人のスタッフのうち女性は12~13人います。当然、彼女たちは学校教育を受けています。
タリバンは当初過激なお触れを出しましたが、今は少しずつ緩くなっている状態です。
例えば、女性が通っている「隠れ学校」。
表向きは取り締まるふりをしつつ、実際は黙認している。
これも日本では全く知られていない。
日経ビジネス
中に入って活動していた中村氏だからこそ言える言葉ですね。
しかも中村氏自身はキリスト教にも関わらず、アフガン人は全く気にしないようで、タリバン側も中村氏が困っている場合に間に入ってくれて安全を確保してくれていたようです。
これだけを見るとタリバン側の方が実は正義だったのではないかと思わざるをえないですね。
そんなタリバンの実情を知っていた中村氏ですが、2019年12月4日、現地代表の中村哲がナンガルハル州ジャララバードで武装勢力の襲撃を受け、亡くなっています。
タリバン側は即座に事件の関与を否定しましたが、捜査局はタリバンのパキスタンの地方幹部を主犯格と特定し、容疑者の男はその後襲撃事件で死亡しています。
外から見た印象はタリバンが悪と映っているわけですから、政治的な意図があってタリバンの幹部をあえて主犯格と吊し上げたのかもしれません。
もしかするとタリバン側も一枚岩ではないのかもしれませんが、あくまで想像ですが、中村氏の話を聞く限りでは北部同盟が諸悪の根源なような気がしてなりませんね。
再度タリバンがカブール陥落をした今、中村氏はどういう事を思っているのでしょうね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
世界の国々の腐敗度数を発表している国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」によれば、アフガニスタンはその腐敗度が2007年以来ほとんどの年でワースト5に入っている事から、アフガニスタン政権を20年間支えてきたアメリカ側もさすがに機能していないと悟ったのかもしれません。
タリバン側も全土を制圧した今、20年前と違うという事を強調したり、報復や市民の安全を確保するように呼び掛けている事からタリバン側も少なからず時代と共に変化が生じているのかもしれませんね。
しかし、市民や外国人の安全を謳っておきながらも、武力による制圧も連日の報道ではされているようなので、長期で今後の行方を見守っていかなければならないです。
どちらにしろ一刻も早く平和になる事を望むばかりです。
以上最後まで読んで頂きありがとうございました!
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