タリバンがアフガニスタンの首都カブールを奪還し、約20年ぶりに実質の政権奪取となったアフガニスタンですが、今回はシリアでタリバンではない別の新興勢力IS(イスラム国)によって囚われたデンマーク人写真家の奇跡の救出を描く実話を基にした映画『ある人質 生還までの398日』を解説していきたいと思います。
原作本は、デンマーク人ジャーナリストのプク・ダムスゴー氏が、ISに人質に取られ、九死に一生を得て生還したダニエル・リューへの取材を基にまとめた著書『ISの人質 13カ月の拘束、そして生還』をもとに製作されました。
『ある人質 生還までの398日』作品情報及び予告
主人公のダニエル役を演じたエスベン・スメド氏はロバート賞というデンマーク版アカデミー賞で主演男優賞を受賞した他、本作品では観客賞、脚色賞、助演女優賞、Zulu賞で作品賞を受賞し、デンマーク国内で非常に高い評価を得ました✨
『ある人質 生還までの398日』あらすじ
デンマークの体操チームのメンバーであるダニエル・リュー(エスベン・スメド)は世界大会を目前にして怪我をしてしまい選手生命を絶たれてしまいます。
失意の中、第2の人生として以前から興味のあったカメラマンを目指すことを決意します。
恋人と共にコペンハーゲンで新たな生活を始めたダニエルは、カメラマンのアシスタントの仕事を探し始めます。
自身のポートフォリオを持ってある事務所で採用されたダニエルは、アシスタントとしてシリアに向かう事に。
内戦中のシリアで無邪気に遊ぶ子供達や日常風景を撮影することにやりがいを感じ始めたダニエルは、ある日女性ガイドとボディガードと共にとある町に向かい夢中でシャッターを切ります。
その時ダニエルの元にやってきた複数の男たちが誰の許可で写真を撮っているのだとダニエルらを威嚇してきます。
女性ガイドは自由シリア軍の許可証があると訴えるも、聞き入れられずダニエルはカメラを取り上げられ、ガイドと共に目隠しをされ車に連行されます。
アジトのようなところに連れてこられたダニエルは拘束され、拷問をうけます。
本当のことを言っても信じてもらえず、何しにやってきたのか、CIAなのかと疑われます。
一方、デンマークでは、帰ってくる予定の便にダニエルがいないことに気がついた恋人が、すぐさまダニエルの両親に連絡をします。
両親は人質交渉の専門家アートゥア(アナス・W・ベアテルセン)をダニエルから連絡先を教えられていたのでアートゥアに連絡し雇います。
こうしてダニエルとその家族たちの、予想もしなかった恐怖と不安の一年が始まるのであった・・・
『ある人質 生還までの398日』みどころは?
テロに屈しないデンマーク政府 vs 人質解放の交渉に応じようとしないIS
まずデンマーク政府は一貫としてテロとの交渉には一切応じないという方針を打ち出している為、どれだけ家族が懇願しても助けてはくれません。
なのでダニエル家族が何とかして身代金を調達する為に奔走するのですが、人質のことが公になれば人質の身に危険が及ぶ可能性があります。
更に、合法的な理由で資金調達をしなければ、家族が起訴される可能性もある為、家族の資金調達の難しさもスポットがあてられています。
そして予告映像でもある通り、ISの要求は70万ドルに対し、家族が用意出来たのはわずか25万ドルです。
少なく提示すれば、侮辱されたとみなされるという人質交渉人のアートゥアの意見を家族は聞き入れず、25万ドルで提示すると、案の定怒った組織は身代金を200万ユーロに要求を引き上げた事で、ダニエルの置かれた状況は更に悪化していきます。
デンマークって世界一幸福度が高い国とも言われてますが、テロ組織に対しては要求も聞かないし支援もしないというある意味冷酷とも取れる対応です。
政府も人質解放の為に身代金を支援してしまうと、その資金でISが更に勢力を伸ばし、より多くの死者を出してしまうかもしれないと考えれば、1人の命を失う事もやむなしと判断せざるを得ないという方針を取ったという事です。
人質に取られた家族からしてみれば身内の命の方が大事なのは誰でもそうだと思うので、政府に不信感を持ってしまう。
客観的に見るとどちらも正しい行動なのではないかと思ってしまうからこそお互い辛い決断をしなければいないのだと思います。
人質交渉人のアートゥア役が超絶イケ渋オヤジ!
Embed from Getty Images人質交渉の専門家アートゥア役を演じたアナス・W・ベアテルセン氏が超絶イケ渋親父すぎて存在感がやばいです。
タバコを吸うシーン1つにしても、普通のタバコではなくコーンパイプ(マッカーサー等が吸ってるようなパイプ)で吸ってたりするのがまた似合いすぎてますし、交渉人というキーパーソンを見事演じ切っていますので、こちらにも要注目です。
ちなみに共同監督としても本作品に携わっています。
捕虜になったアメリカ人ジャーナリストのジェームズとの出会い
アートゥアはダニエルだけでなく、ジェームズ(トビー・ケベル)というアメリカ人従軍記者の行方も探しているのですが、ジェームズの捜索のほうは手詰まりになっています。
そんな中ISが捉えた人質の中に新たにジェームズが加わります。
ISの第一敵国のアメリカ人である彼は、捉えられた時点でほぼ生き残るチャンスはないとおそらく悟っていたに違いないと思いますが、そんな中でも明るく前向きなジェームズにダニエルは意気投合します。
ダニエルは邦題にある通り、生還するのは確定していますが、そんな中でのダニエルとジェームズの友情や、最後のシーンは涙なしでは観れませんでした。
正直普段どんな感動的な映画でも泣かなかった自分もこの作品だけは辛すぎて泣いてしまいました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
先日の記事(カブール陥落し銃殺された中村医師の言葉から考えるタリバンの実情)では、タリバンについて書きましたが、今回はISという組織について語られた映画作品をご紹介しました。
カブール陥落後のカタール空港で自爆テロがあり、米兵や一般市民を巻き込む多大な死者を出したニュースが記憶に新しいですが、アフガニスタンもタリバン以外に多くの新興勢力がおり、中でもIS(ISISとも言う)はかなり残虐な武装勢力組織と言われています。
ダニエルも、許可を取って入国し、比較的安全とされているエリアで捉えられているので、こういった国に入る以上安全な場所はもはやないのかもしれません。
しかし、内部の実情を世界に発信してくれているのはこういったジャーナリストやカメラマンのおかげでもあります。
知った所で我々は何も出来ないかもしれませんが、何も行動を起こせと言っているわけではありません。
事実を知る人が増えていくだけでも世界に取っていい方向に向かっていくのではないかと思います。
以上最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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